複雑なデータ構造に挑む外れ値検出:射影追跡とカーネル法の融合
データサイエンスの多様な分野において、正常なパターンから逸脱したデータを発見する「外れ値検出(異常検知)」は、金融不正の防止、医療データの解析、データクリーニングなど、さまざまな分野で用いられる基盤技術です。現実世界のデータは、しばしば単一の綺麗な分布には収まらず、複数の異なるグループ(多峰性・マルチモーダル)を形成したり、複雑に歪んだ非線形な構造を持っています。
外れ値検出の強力な枠組みの一つに、「データが最も異常に見える軸(射影)を探す」という射影追跡(Projection Pursuit)のパラダイムがあります。この手法は、高次元データを低次元の射影へと落とし込み、その中に現れる異常な構造を捉えることができます。古典的な手法では、データ全体を一つの分布として扱い、MADなどの固定的な統計量に基づいて外れ値度を評価するため、現実の複雑なデータ構造に対しては正常なデータを異常と誤認してしまうという限界がありました。
当研究室では、この射影追跡の頑健性を活かしつつ、現実の複雑なデータに直面しても高い精度を維持できる、新しい外れ値検出の数理フレームワークの構築に取り組んでいます。
最初に、データの「局所的な構造」に着目しました。データ空間を自律的に分割(クラスタリング)し、それぞれの局所的な文脈の中で異常度を評価・重み付けすることで、多峰性データにおける誤検知を低減する手法を開発しました。次に、データに潜む「非線形な関係性」を捉えるため、カーネル法を導入しました。データを高次元の特徴空間へと写像し、その空間内で射影深度(Projection Depth)を計算することで、非線形な構造を持つデータにおける異常を捉える枠組みを構築しました。
現在、これらの知見は一つの統合的な枠組みへと発展しています。それは、外れ値の度合いを単なる固定の統計量として与えるのではなく、損失が最大となる射影方向を探索して定義する「損失の最大化問題(Loss Outlyingness)」という考え方です。カーネル法による非線形なデータ構造の表現と、局所クラスタリングによる多峰性の分離に加え、機械学習(SVMなど)に着想を得た適応的な損失関数を組み合わせることで、従来手法では対応困難であった複雑なデータ構造に対しても良好な検出精度を達成しています。
当研究室は、統計学と機械学習の交差点において、頑健で実用的な外れ値検出の新しいパラダイムを切り拓く研究を進めています。
これまでの主な研究成果(Publications)
これまで、射影ベースの外れ値検出技術における「多峰性(マルチモーダル)」と「非線形性」という2つの本質的課題に対し、段階的な解決と理論の統合を行ってきました。
局所的スコア重み付けによる多峰性データへの対応
古典的なランダム射影外れ値度(RPO)が単一の分布を仮定しているため、複数のクラスタを持つデータで誤検知を起こす問題に対処しました。教師なしクラスタリングによってデータの局所的な中心を捉え、クラスタサイズに基づく重み付けを行う新手法(WRPO)を提案し、多峰性データにおける検出精度を大幅に向上させました。
Akira Tamamori, "Unsupervised Outlier Detection based on Random Projection Outlyingness with Local Score Weighting," IEICE Trans. Info. & Syst., vol. E106-D, no. 7, pp. 1244--1248, July 2023. DOI: 10.1587/transinf.2022EDL8039
カーネル空間におけるランダム射影深度の定式化
線形分離不可能な複雑なデータクラウドに対応するため、射影深度の概念を再生核ヒルベルト空間(RKHS)へと拡張しました。カーネル主成分分析(KPCA)による次元削減と組み合わせることで、高次元空間での内積計算の呪いを回避しつつ、非線形データに対するロバストな外れ値検出手法(KRPD)を定式化しました。
Akira Tamamori, "Kernel Random Projection Depth for Outlier Detection," 2023 Asia Pacific Signal and Information Processing Association Annual Summit and Conference (APSIPA ASC), Taipei, Taiwan, pp. 317--324, November 2023. DOI: 10.1109/APSIPAASC58517.2023.10317422 (arXiv ver. 10.48550/arXiv.2306.07056)
非線形・多峰性データを捉える2段階局所化カーネル射影外れ値度
これまでの「局所化」と「カーネル化」のアプローチを統合したフレームワークです。従来手法で用いられてきた固定的な統計量に代えて、外れ値度を「損失の最大化問題(PLO)」として再定義しました。大域的なカーネルマッピングと局所的なクラスタリングの相乗効果に、SVMに着想を得た新しい損失関数を組み合わせることで、複雑なベンチマークデータセット群において良好な検出性能を達成しました。
Akira Tamamori, "Localized Kernel Projection Outlyingness: A Two-Stage Approach for Multi-Modal Outlier Detection," IEICE Trans. Info. & Syst., vol. E109-D, no. 12, pp. **--**, December 2026. DOI: 10.1587/transinf.2025EDP7228 (in press)